こんにちは『福祉のほしクズ』です。
今回は、ショートステイで看取り介護を行うことについて、ボクの実体験をもとにお話していきたいと思います。
看取り介護というと、特別養護老人ホームを思い浮かべる方が多いと思います。特別養護老人ホームでは、看取り介護加算という看取りに対応した場合に算定できる加算が存在しています。
看取りの状態になった方について、医師が看取り期と判断した場合、ご本人やご家族に十分な説明を行い、看取りに必要なケアを行っていくものです。
特別養護老人ホームは、「終の棲家」としての役割を担っているため、「看取り介護=特養」というイメージが強いのです。
しかし、最近では住み慣れた我が家で最期を迎えたいとご希望する方や地域包括ケアシステムの構築により、在宅でも安心して最期を迎えられる環境が整いつつあります。
とはいっても、在宅での看取りを全てご家族だけで対応することは難しく、またご家族が看取り介護に疲れや不安を感じてしまっては、ご本人にとって安心できる最期を迎えることが難しくなる可能性があります。
そこで、ショートステイ(短期入所)においても、そのご家族の不安や負担を少しでも軽減し、ご本人が安らかな最期を迎えられるように、お手伝いさせて頂くことが必要になってきます。
結論から言うと…
しかし、ショートステイでの看取りを行うには、介護職員や看護職員との連携や関係する事業所(訪問看護や居宅介護支援事業所)やご家族の理解と協力、主治医の協力などが必要になります。
また、死というものに対して関わっていくことには、不安もあります。
今回の記事では、ショートステイでの看取りについて悩んでいる生活相談員や現場職員、ケアマネジャーのお力になれるように、看取り介護を行った経過について、可能な限り具体的にお話していきたいと思います。
ショートステイでの看取り介護 ①相談の経緯
ボクがショートステイの相談員をしている時に、あるご利用者の担当ケアマネジャーから「看取りの方のショートステイの受け入れは可能か?」との問い合わせがありました。
入所されている方の看取り介護は聞いたことがありましたが、ショートステイはそもそも在宅サービスであり、体調が安定しない方の受け入れはできないものだと思っていました。
ご家族の希望
ショートステイの利用を希望する理由について、ケアマネジャーからお話があった内容は以下のとおりです。
「家族が80歳と高齢で、本人の体調面への不安や毎日続く介護から疲れを感じてきており、身体的にも精神的にも限界にきているため、なんとかショートステイをお願いできないだろうか。」とのことでした。
ご利用者の状態
M.M様(女性)99歳 要介護5
主病名:アルツハイマー型認知症、慢性心不全、骨粗鬆症
アルツハイマー型認知症の進行と老衰により、徐々に経口摂取が難しくなり、栄養補助食品を数口召し上がる程度の食事量。日中夜間ともに目を閉じておられることが多く、傾眠傾向も強い。
股関節の拘縮強く、骨粗鬆症のため骨折のリスクが高い。介護を行う際は、十分な注意が必要である。褥瘡はなし。
声かけに対して、うっすらと目を開けたり、調子が良い時は頷くこともある。お話することは難しい。体調やバイタルを見て可能であれば入浴して頂き、難しい場合は清拭で対応。
利用しているサービス
訪問看護 週3回(月・水・金) ※24時間対応体制加算を算定
訪問介護 連日1日2回(午前・午後)
通所介護は、事業所側が状態的に受け入れが難しいとの判断から利用中止となった。
ボクが相談を受けたとき
「このままでは、共倒れになってしまう」「人生の最期をお互い気持ちよく迎えさせてあげたい」
これが率直な感想でした。
ショートステイでの看取り介護 ②事業所内での調整
ショートステイで利用を受けるためには、介護職員や看護職員などの現場職員へ相談し、理解を得なければなりません。ご家族の希望、ケアマネジャーからの相談内容、ご本人の状態などについて報告し、受け入れのための相談を行いました。
介護現場からの声
相談した際の現場からの声↓
「そんな状態の人を受けるんですか?」
「ショートは看取る場所ではないのではないか」
「現場の大変さを分かってない」
素直な意見だと思いました。私は受け入れ窓口や利用調整の役割を担っていますが、実際にその介護を行うのは現場の職員です、自分の気持ちだけではどうにもならない無力感を感じました。
利用をご遠慮して頂くしかないと想っていた中、現場の主任から
ボクは、生活相談員としての使命感・自分の信念に従い、この状況を解決していくための方法を考えることにしました
介護現場の不安を具体的にしていく
ショートステイにおいて「看取り」というキーワードだけでも不安になり、実際に受けることよりも感情が先行してしまうのは仕方ありません。
ボクは、もう一度この看取りケースについて話す機会を頂き、実際に受けると仮定したときに感じる不安を聴いてみることにしました。
具体的に上がってきた不安
「夜間に何かあった時にどうしたら良いのか分からない」
「亡くなるまで利用は続くのか」
「危険な状態の見極めが難しい」
上記の内容について、ご家族・関係事業所を含めて検討させていただくことで了解を頂き、再度相談することになりました。
ショートステイでの看取り介護 ③サービス担当者会議
利用のための相談を進めていくため、ケアマネジャーが関係する事業所を招集し、ご家族を含めてサービス担当者会議を開催することとなりました。
参加者は以下のとおり
ご家族 ・ 担当ケアマネジャー ・ 訪問看護ステーション ・ ホームヘルプステーション
ショートステイ生活相談員
ご利用にあたっての具体的な対応
ご家族はもちろん、関係する事業所でも前例がなく、ショートステイにおける看取りに対しては初めての試みとなるため不安はありました。
しかし、どの事業所の方も利用するための方法を一緒に考えて下さり、とても力になりました。
受け入れにあたっての検討事項とその対応
①利用可能かの判断について
⇒前日の夕方に訪問看護が訪問し、バイタル測定及び全身状態の確認を行う。利用当日の送迎は、相談員と看護師が行い、自宅にてバイタル測定及び全身状態の確認を行い、利用可能か判断する。
②利用期間について
⇒訪問系サービスの予定が組みやすいことと在宅での生活も大切にしたいというご家族の希望から、1回のご利用期間を1週間として、隔週で利用とする。
③利用中の体調管理について
⇒定期的なバイタル測定及び全身状態の確認を行い、ショートステイの看護師が利用継続が難しいと判断した時点で、利用中止とする。夜間帯については、状態から夜間に急変するリスクが高いとショートステイ看護師が判断した場合、看護師が不在になる夜間帯になる前に利用中止とする。
④急変または呼吸停止状態になった場合
⇒ショートステイ看護師により状態の確認。生活相談員からご家族、ケアマネジャー、訪問看護ステーションへ連絡し、自宅に戻る準備を行う。訪問看護は自宅へ向かい、帰宅を待つ。
準備が整い次第、生活相談員とショートステイ看護師で送迎を行い。自宅にてご家族及び訪問看護へ説明を行う。
訪問看護師より主治医へ連絡をし、死亡診断のため訪問してもらう。
⑤ケアプランへの記載
⇒上記の内容を主治医、ご家族、訪問看護ステーション、ホームヘルプステーション、ショートステイ職員が理解し、共通認識を持って対応する。
詳しくは書けませんが、実際は連絡先のフローチャートを作成したり、電話番号を記載したり、細かく記載した計画書を作成しました。
ショートステイでの看取り介護 ④ご利用者の受入れた結果
サービス担当者会議の内容と緊急時等の行動フローチャートの作成などにより、介護現場からもショートステイ受け入れに理解をもらい、受け入れとなりました。
当日、お迎えに伺いましたが、ご家族のホッとした表情が印象的でした。
結果的に、看取りのショートステイを受け入れてから2か月間、ご利用いただきました。
ご家族のご様子
ショートステイ利用前は、介護に精一杯だったご家族が、ショートを利用する事により、「こんな食べ物が好きだったから、今度楽しみ程度に口にしてほしい」「家でも少しでも外の空気に触れられるように、ベッドや部屋の位置など一緒に考えてほしい」など、ご本人が最期を迎えるにあたり、自分たちが何ができるのか、何をしてあげられるのか、を考える時間と気持ちの余裕ができた様子でした。
ご本人のご様子
ご本人の状態は、比較的安定しており、急変と言うよりは徐々に老衰が進んでいくようなご様子でした。音楽を聴いていただいたり、話しかける機会を増やすなどする中で、時より笑顔が見られたり、声にもならないような小さな声でしたが「ありがとう。」とお話してくださいました。
最期の日は、午前7時頃、ボクが出勤したタイミングで、無呼吸に時間が長くなり、血圧も測定できない状態になりました。手順通り、訪問看護・ご家族に連絡し、送迎の準備をしました。
送迎中に呼吸停止、ご自宅に到着した際にはすでに訪問看護の看護師がおり、主治医にもすでに連絡済で15分ほどで来ていただけるとの事でした。
1時間後にお亡くなりになられたとのご連絡をいただきました。
職員の様子
ショートステイでの看取り対応ということで、不安も大きかったと思いますが、ご本人が利用されると、毎日声をかけに言ってくれたり、庭の散歩に出かけたり、本当に親身になって関わってくれました。
「もっとできることはないか?」「こういう姿勢の方が楽ではないか」「こういうものなら食べれそうじゃない?」
ご本人のためにできることを必死に考えてくれました。
ショートステイで看取り介護が行えた理由
まずは、主治医が看取りの方をショートで受け入れるにあたって、理解と協力をしてくれたことです。我々だけが手を貸したいと思っていても、最終的な判断をするのは主治医です。今回は、訪問看護やケアマネジャーの方が、主治医に何度も相談し、検討して頂けたため実現する事ができました。
後日、その主治医をお会いする機会がありましたが、
とのお言葉を頂戴しました。
関係事業所との連携も重要な要素でした。
別の法人のでありながら、その方の力になりたいという想いから、とても良い連携をとることができました。それぞれの専門職の立場から、その力を十分に発揮していただき、まさにチームケアを実践できたと思います。
そして何より、受け入れに協力してもらい、対応してもらった現場職員のおかげです。看取りと聞けば、誰しも不安に思うのは当たり前です。しかし、きちんと検討し対応を考え、結果的に最期まで関わる事ができたこと、本当に感謝でした。
また。当時の施設長は最初の話の段階から、前向きに考えて下さり、毎日のミーティングの中でも具体的な対応へのアドバイスだけでなく、精神面でも支えて下さいました。
後日談
後日、ご家族からお手紙をいただきました。ショートステイのご利用者ですので、亡くなれば契約解除となり、関わることもなくなりますが、わざわざお手紙を直接持ってきてくださり、とても嬉しく思いました。
その手紙の中に、次のような一文が書かれていました。
「最後まで家族が家族として関われたこと」
これが、ボクの福祉職としての原動力に今でもなっています。誰も好きで病気になったり認知症になったりするわけではなりません。でも、いつそういう状況に陥るのかは誰も分かりません。
そんな時に、支えになれる相談員でありたい。それがボクの原点です。
どんな状況であっても、最期の時までその方らしく、その家族らしく、その生活を支えていきたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。この経験談が、少しでも皆様のお役に立てたら嬉しいです。